労災保険メリット制と不利益取扱い―企業が今押さえるべき法的視点

皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。

12月4日、労働政策審議会労災保険部会において、労災保険の「メリット制」を巡る重要な論点が示されました。
メリット制とは、事業場ごとの労災発生状況に応じて労災保険料率を増減させる制度で、安全対策を促す仕組みとして長年運用されています。

一方で、労働者側からは以前より、労災申請を行った労働者が事業主から報復行為や不利益取扱いを受けているのではないかという懸念が示されてきました。厚生労働省事務局は、こうした行為が実際に発生しているかどうかを調査し、その結果を踏まえて制度のあり方を検討すべきだと提案しています。

今回はこの「メリット制」を巡る労使間のトラブルについてお話ししたいと思います。

なぜ「報復行為」が問題になるのか

メリット制の下では、労災が増えると事業主の保険料負担が増加します。
そのため、
• 労災申請を控えるよう圧力をかける
• 労災申請後に配置転換や契約更新拒否を行う

といった行為が起こり得る構造があることは否定できません。

こうした行為は、労働者の正当な権利行使を萎縮させるだけでなく、労災隠しにつながり、結果として職場の安全改善を妨げることになります。

過去の裁判例が示す法的リスク

実際に、労災申請を理由とした不利益取扱いが争われた裁判例も存在します。

たとえば、労災申請後に契約更新を拒否された事案では、裁判所が「労災保険給付の請求は労働者の正当な権利行使であり、それを理由とする不利益取扱いは公序良俗に反し無効」と判断したケースがあります。

また、労災申請をした労働者に対する嫌がらせや退職勧奨について、安全配慮義務違反や不法行為責任を認め、事業主に損害賠償を命じた例もあります。

これらの裁判例からも分かるとおり、仮に経営上の理由があったとしても、労災申請との因果関係が疑われる対応は、企業にとって大きな法的リスクとなります。

企業に求められる実務対応

今回の審議会では、使用者側も「エビデンスに基づく実態把握は重要」と応じています。
今後、調査結果次第では、メリット制の見直しや、不利益取扱い防止策の強化が進む可能性があります。

企業としては、
• 労災申請を理由とした不利益取扱いを行わない方針の明確化
• 管理職への研修・周知
• 労災発生時の対応フローの整備

などを通じて、「申請しても不利益を受けない職場づくり」を進めることが重要です。

労災保険メリット制は、適切に運用されれば職場の安全向上に寄与する制度です。しかし、その裏で労働者の権利行使が阻害されていないか、常に点検する視点が求められます。

労災対応や人事判断に不安がある場合は、早めに専門家へご相談ください。制度理解と実務対応の両立が、将来的なトラブル防止につながります。

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