転勤命令はどこまで許される?~働く人も会社も知っておきたいポイント~

皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。

人事異動の季節になると、「転勤を命じたら断られてしまった」「転勤は絶対に従わないといけないの?」というご相談をいただくことがあります。

今回は、意外と誤解の多い「転勤」についてお話ししたいと思います。

■ 転勤命令は会社の権限?

一般的に、会社には「人事権」があり、その一つとして転勤命令権があります。

ただし、会社が自由にどこへでも転勤を命じられるわけではありません。転勤の有無や範囲は、雇用契約書や就業規則に定められた内容によって決まります。

たとえば、雇用契約書に「勤務地は○○市内」と明記されている場合、原則として他の地域への転勤を命じることはできません。

一方、「会社の定める場所」とされている場合は、全国転勤を命じる可能性もあります。

■ 転勤命令が「無効」とされる場合

裁判例では、「転勤命令が業務上の必要性を欠き、不当な動機・目的で行われた場合」には無効とされています。

また、家族の介護や育児など、本人に著しい不利益を与える事情がある場合も、慎重な判断が求められます。

たとえば、ある社員が重病の親の介護をしているにもかかわらず、特段の業務上の必要性もなく遠方転勤を命じたケースでは、裁判所が「権利の濫用」と判断した例もあります。

つまり、「会社の都合だけ」で一方的に転勤を命じることは許されないのです。

■ 従業員は転勤を拒否できる?

基本的には、雇用契約や就業規則に転勤命令の可能性が明記されている場合、従業員は合理的な理由なく拒否できません。

しかし、転勤によって生活が著しく困難になる事情がある場合には、拒否が認められる可能性もあります。

たとえば、

  • 小さな子どもがいて単身赴任が難しい
  • 配偶者が病気で看護が必要
  • 介護など家庭の事情があるといった場合は、会社も柔軟な対応を検討する必要があります。

最近では、ワークライフバランスや働き方改革の流れの中で、「全国転勤が前提」の働き方を見直す企業も増えています。

■ 会社が注意すべきポイント

企業としては、転勤命令を出す前に、次の点を確認しましょう。

  1. 就業規則・雇用契約書に転勤に関する規定があるか
  2. 業務上の必要性が明確か(単なる人員調整ではないか)
  3. 本人の事情を十分に考慮しているか
  4. 説明や相談のプロセスを丁寧に行っているか

これらを怠ると、たとえ法的には可能であっても、会社の信頼関係を損ねる原因になります。

■ まとめ

転勤は、会社の経営上の判断として必要な場合もありますが、従業員の生活に大きな影響を与える重大な命令です。

「権利の濫用」にならないよう、慎重な運用を心がけましょう。

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