60歳以上の労災が増加中…企業に求められる新たな安全配慮とは?
皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。
令和8年4月1日より、「高年齢者の労働災害防止のための指針」が適用されることとなりました。これは、令和7年法律第33号による改正後の労働安全衛生法第62条の2に基づくものであり、企業に対して高年齢労働者の安全確保に向けた取組を求める重要な内容となっています。
近年、日本全体で高年齢労働者の就業が進んでいます。定年延長や再雇用制度の普及により、60歳以上の労働者が現場で活躍する機会は確実に増えています。一方で、加齢による身体機能の低下や反応速度の変化などにより、労働災害のリスクが高まることも指摘されています。
実際に、山口県内のデータを見ると、60歳以上の労働者に係る休業4日以上の労働災害は、平成27年の335人(全体の26.3%)から、令和7年には469人(34.3%)へと大きく増加しています。このような状況から、高年齢者に特化した労災防止対策の強化が急務となっています。
今回の指針は、法的な義務ではなく「努力義務」と位置付けられていますが、実務上は非常に重要な意味を持ちます。万が一労働災害が発生した場合、企業の安全配慮義務が問われる中で、この指針への対応状況が判断材料となる可能性があるためです。
では、具体的に企業にはどのような対応が求められるのでしょうか。
まず重要なのは、高年齢労働者の特性を踏まえたリスクアセスメントの実施です。例えば、転倒や墜落といった災害は高年齢者に多く見られるため、段差の解消や手すりの設置、照明の改善など、作業環境の見直しが必要です。また、重量物の取り扱いや長時間の立ち作業など、身体的負担の大きい業務についても再検討が求められます。
次に、作業内容や配置の見直しも重要です。高年齢者の経験や知識を活かしつつ、身体的負担を軽減できる業務への配置転換や、複数人での作業体制の導入などが有効です。
さらに、健康管理の強化も欠かせません。定期健康診断の結果を踏まえたフォローや、本人の体調に応じた柔軟な働き方の導入など、個々の状況に応じた対応が求められます。
加えて、教育や意識づけも重要なポイントです。高年齢労働者本人だけでなく、周囲の従業員にも理解を促し、職場全体で安全意識を高めることが必要です。「ベテランだから大丈夫」という思い込みが、事故の原因となるケースも少なくありません。
今回の指針は、高年齢者だけを対象としたものではなく、すべての労働者が安全に働くための職場環境づくりにつながるものです。高年齢者に配慮した環境は、結果として若年層や中堅層にとっても働きやすい職場となります。
人手不足が深刻化する中で、高年齢者の活躍は企業にとって重要な戦力です。その力を最大限に引き出すためにも、安全で安心して働ける環境整備は欠かせません。
令和8年4月の施行に向けて、今一度自社の労働環境を見直し、できることから着実に取り組んでいくことが求められます。形式的な対応にとどまらず、実効性のある対策を講じることが、これからの企業経営においてますます重要になるでしょう。

