月1時間の残業でも送検?―36協定“無効”の重大リスクとは
皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。
新年度を前に、36協定の締結・更新業務で慌ただしい時期を迎えている企業も多いのではないでしょうか。そんな中、非常に示唆に富む送検事例が報道されました。
大阪南労働基準監督署は、訪問介護事業を行う会社および同社部長らを、労働基準法第32条違反の疑いで大阪地検に書類送検しました。
問題となったのは、「有効な36協定が存在していなかった」ことです。
■ なぜ36協定が“無効”と判断されたのか
同社は36協定を締結していたものの、労働者の過半数を代表する者の選出手続きが適正に行われていなかったとされています。
労働基準法第32条では、原則として
・1日8時間
・1週40時間
を超える労働を禁止しています。
これを超えて時間外労働をさせるためには、いわゆる「36協定」(時間外・休日労働に関する協定)を、労働者の過半数代表者と締結し、労働基準監督署へ届け出なければなりません。
ここで重要なのは、単に書面を作成すれば足りるわけではないという点です。
過半数代表者は、
• 管理監督者でないこと
• 使用者の意向に基づいて選出された者でないこと
• 民主的な方法で選出されていること
といった要件を満たす必要があります。
これらを欠く場合、36協定は無効と判断されます。
■ 月1時間でも違法になる
今回の事案では、時間外労働は最大で「月1時間」だったとされています。
しかし、36協定が無効であれば、たとえ1時間でも法定労働時間を超えた労働は違法です。
「残業代を払っているから大丈夫」
「ほんのわずかな時間だから問題ない」
という考えは通用しません。
労働基準法違反は、“時間の長さ”ではなく、“法定手続きの有無”で判断されるのです。
■ 36協定実務で見落とされがちなポイント
実務上、次のようなケースは特に注意が必要です。
1. 会社が指名して代表者に就任してもらっている
2. 投票や挙手などの選出記録を残していない
3. 協定書の有効期間が切れている
4. 本社で一括締結し、事業場ごとに締結していない
5. 協定内容と実際の残業実態が一致していない
特に過半数代表者の選出方法は、調査の際に必ず確認されるポイントです。書面が整っていても、選出過程に問題があれば協定は無効になります。
■ 労働基準監督署の対応
労働基準監督署は、定期監督や労働者からの申告に基づき調査を実施します。違反が認められた場合は、通常まず是正勧告が出されます。
しかし、
・是正に応じない
・繰り返し違反している
・悪質性が高い
と判断された場合には、今回のように送検に至ることもあります。
送検は企業の社会的信用に大きな影響を及ぼします。とりわけ介護や医療など公共性の高い業種では、信用低下は事業継続にも直結しかねません。
■ 今こそ見直すべき実務対応
4月は36協定の更新時期が集中するタイミングです。単なる「書類更新作業」にしてしまうのではなく、次の点を改めて確認しましょう。
• 過半数代表者の選出方法は適正か
• 選出過程の記録は保存しているか
• 協定内容は実態に合っているか
• 特別条項の限度時間は遵守できているか
• 届出は期限内に行われているか
36協定は「形式」ではなく「適法性」が問われます。
今回の事例は、わずかな時間外労働であっても、手続き不備があれば刑事責任に発展し得ることを示しました。
企業防衛の観点からも、今一度、自社の36協定の運用を総点検することを強くお勧めします。
当事務所では、過半数代表者の選出支援から協定内容の見直し、実態に即した労働時間管理体制の構築までサポートしております。繁忙期だからこそ、法令遵守の基盤を固める絶好の機会です。
「うちは大丈夫」と思っている今こそが、見直しのタイミングかもしれません。

