想定外の災害に備える労務管理:残業・休業・賃金の基本知識
皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。
12月8日に発生した青森県東方沖の大きな地震では、広い地域で強い揺れが観測され、鉄道の運休や停電、津波警報の発表など、さまざまな影響が出ました。自然災害が突然、私たちの生活や働き方に大きな影響を与えることを改めて感じた方も多いのではないでしょうか。
今回は、このような自然災害が発生した際の「時間外労働(残業)」の扱いについてお話ししたいと思います。
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■1. 災害時でも「労働基準法のルールは基本的に変わらない」
地震や台風が起きたとき、企業では設備点検や復旧作業、問い合わせ対応など通常以上に業務が増えることがあります。しかし、災害時だからといって無制限に時間外労働をさせてよいわけではありません。
原則として、
• 労働時間は1日8時間・週40時間
• 時間外労働をさせるには36協定が必要
という労働基準法の基本は変わりません。
ただし後述のように、「災害その他避けることのできない事由」に該当する場合は一部の特例が認められています。
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■2. 「災害その他避けることのできない事由」による特例とは?
労働基準法第33条は、
災害その他避けることのできない事由のために、臨時の必要がある場合
には、労働基準監督署へ届け出ることで 36協定がなくても時間外労働や休日労働が可能 と定めています。
たとえば、
• 地震で壊れた施設の応急対応
• 事業継続のための緊急作業
• 従業員の安全確保のための緊急措置 など
「やむを得ない」状況であれば対象となる可能性があります。
ただしこれはあくまで緊急避難的な措置であり、恒常的な残業を正当化するものではありません。
また、使用者は事後でも速やかに監督署へ「災害時の労働時間に関する届出」を行う必要があります。
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■3. 災害によって従業員が出勤できなかった場合は?
公共交通機関の停止や自宅の被災などで従業員が出勤できないこともあります。
それぞれのケースについて見ていきましょう。
① 公共交通機関の停止(台風・地震など)で出勤できない場合
会社に責任がないため、原則として“ノーワーク・ノーペイ(働いていない時間の賃金は発生しない)”となります。
休業手当(平均賃金の60%)の支払い義務もありません。
※休業手当は「会社の責に帰すべき事由」で休業させた時に発生するため、災害は該当しません。
●会社が判断して自宅待機を命じた場合は?
→ 会社側の都合による休業となり、休業手当(60%以上)が必要になる可能性があります。
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② 従業員の自宅が被災し、安全確保のため出勤できない場合
これも基本的には会社の責任ではないため、賃金の支払い義務はなく、欠勤扱いが一般的です。
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③ ただし会社の判断で特別に有給扱いにすることは可能
法律上は有給付与の義務はありませんが、企業の裁量で以下を認めるケースもあります。
• 特別有給休暇(災害休暇)
• 年次有給休暇の取得
• 有給相当の補填
従業員支援の一環として就業規則に定める企業も増えています。
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④ テレワーク可能なら賃金は発生
在宅勤務で労務を提供できた場合は、もちろん通常どおり賃金が発生します。ただし、災害は「不可抗力」であり、従業員の責めに帰すことができないケースがほとんどです。
企業としては一律で不利益がないよう、テレワークや有給休暇の取得促進など柔軟な対応を検討することが望ましいでしょう。
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■4. 災害対策は「労務管理」もセットで考える時代
災害に強い組織づくりには、施設の安全確保だけでなく、労務管理の整備が欠かせません。
特に以下のポイントは事前に準備しておくことをおすすめします。
• 36協定の範囲で対応できる体制か
• 災害時の緊急連絡網・指揮系統の明確化
• 在宅勤務・振替休日などの運用ルール
• 出勤困難時の賃金取り扱いの社内規程
• 労働時間の記録を災害時でも確保できる仕組み
災害が起きてから整備するのでは遅く、従業員の安全確保と事業継続の両立のためには平時からの準備が鍵となります。
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■まとめ
今回の地震をきっかけに、自然災害と労働時間の問題を身近に感じた企業も多いと思います。
災害時であっても、労働基準法の原則は大きくは変わりませんが、緊急時には一定の特例が認められることがあります。
一方で、従業員の安全確保を最優先に、柔軟で適切な労務管理を行うためには、日頃からのルール整備が欠かせません。
当事務所では、災害時の対応を含めた労務管理全般のご相談を承っております。
ご不明点があればお気軽にお問い合わせください。


