まだ請求できる?賃金の“消滅時効”とは?
皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。
「残業代が支払われていなかったことに気づいたけど、いつまでさかのぼって請求できるの?」
「退職してからでも未払い賃金って請求できるの?」
事務所にもよく寄せられるご相談です。
実は、この“さかのぼれる期間=賃金の消滅時効”は、2020年(令和2年)4月の法改正で大きく変わりました。今回は「賃金の消滅時効」についてお話ししたいと思います。
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■ なぜ賃金の時効が変わったのか?
もともと民法には「使用人の給料は1年で時効」という“短期消滅時効”がありました。しかし、労働者保護の観点から、労働基準法(労基法)では独自に2年の時効を設けていました。
ところが、令和2年4月から施行された改正民法で短期消滅時効は廃止。
債権の時効は原則
・知ったときから5年
・できるときから10年(どちらか早い方)
と統一されました。
このままでは、労基法の賃金時効(2年)の方が民法より短くなってしまい、趣旨と逆転してしまいます。
そこで、労基法も合わせて見直されることになったのです。
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■ 賃金の時効は「5年」ただし当面は「3年」
議論の結果、賃金請求権の時効は次のように決まりました。
● 原則:5年
● ただし、当分の間は「3年」にする経過措置あり
つまり、現在は3年が適用されますが、将来的に5年へ完全移行する方向です。
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■ 対象となるのは“賃金”だけ?
改正の対象はあくまで「賃金」に関する時効です。労基法では、ほかにも消滅時効を定めているものがありますが、それらは変更されていません。
● 年次有給休暇の請求権 → 2年のまま
取得率向上の政策と逆行しないよう、据え置かれました。
● 災害補償、その他の債権 → 変更なし
● 退職金の時効 → 従来どおり「5年」
ここを混同してしまう方も多いので注意が必要です。
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■ 事例でわかる!賃金時効のイメージ
◆ 事例①:残業代の未払いに気づいたAさん
Aさんは3年前に退職。その後、同僚から「うちの会社は残業代の計算方法が間違っていたらしい」と聞き、確認したところ自分も未払いがあったことが判明。
→ 現行制度では3年前まで遡って請求できます。
退職していても問題ありません。
◆ 事例②:会社のミスで一部の賃金が支払われていなかったBさん
Bさんは給与明細を細かく見ておらず、1年以上後に未払いに気づきました。
→ 昔は2年まででしたが、今は3年。
気づくのが遅くても諦める必要はありません。
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■ 経営者側も注意!3年分の証拠保全が必須
賃金の時効が3年となったことで、企業側にも影響は大きくなっています。
特に重要なのは、労働時間の記録、賃金台帳、就業規則などの保存。未払い賃金の請求が増えたという報道もあり、企業は「記録の不備=不利な認定」につながるケースも増えています。
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■ まとめ:労働者も会社も「知っておく」ことが最大の防止策
✔ 賃金の消滅時効は 原則5年・当面3年
✔ 年休は2年、退職金は5年(従来どおり)
✔ 証拠が重要!労働者は明細の保存、企業は記録管理が必須
賃金トラブルは、知らなかったことで損をするケースが非常に多い分野です。
「うちの会社の場合はどうなる?」
「時効が気になっている未払いがある」
このようなご相談もお気軽にどうぞ。
適切な対応と予防策をご案内いたします。


