「客観的合理性」と「社会通念上相当性」ってどういうこと?実例で学ぶ法律のモノサシ
皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。
法律の文章を読んでいると、「客観的合理性」 や 「社会通念上相当性」といった言葉がよく出てきます。
なんとなく難しそうですが、実はこの2つは“世の中の妥当性を測るためのモノサシ”のようなものです。
専門家でなくても理解しておくと、職場トラブルや契約など、日常の法的判断にも役立ちます。
今回は、代表的な判例を例に見ながら、「客観的合理性」と「社会通念上相当性」についてお話ししたいと思います。
■ 「客観的合理性」とは?
ひと言で言えば、“誰が見ても筋が通っているか”というチェックです。
- 本当にその事実はあったのか?
- 処分や判断は、証拠や状況から説明できるか?
つまり、本人の「そう思った」ではなく、一般的な第三者の目線で妥当かどうかを見ます。
■ 「社会通念上相当性」とは?
こちらは、“世間の常識で考えて妥当か”という観点です。
- 処分が重すぎないか?
- 行動や契約内容が社会の感覚から見て適切か?
その時代の社会常識や倫理観に照らして判断します。
■ この2つはセットで使われる
法律では、合理的であって、かつ社会常識にも合っているという二重の基準が使われることが多いのです。
どちらか一方だけだと不十分だからです。
- ロジック的に説明できても常識外れ
- 常識っぽく見えても証拠がない
こうした判断は適切ではないため、両方を満たす必要があります。
■ 判例で学ぶ“二つの基準”
ここからは、実際に裁判で使われた判断・枠組みを例として紹介します。
◆ 1. 懲戒解雇は本当に妥当か?
国鉄札幌運転区事件(昭和56年)
国鉄の運転士が「飲酒して出勤した」とされ、懲戒解雇されました。しかし裁判所はこれを無効と判断します。
● 客観的合理性
- 酒気を感じた証言はあっても、
業務に支障があったかを示す客観的証拠は不足 - 「飲酒した」という会社の主張に合理的裏付けが弱かった
● 社会通念上相当性
- 仮に軽度の飲酒があったとしても、いきなり懲戒解雇は重すぎる
と判断。
結果、懲戒解雇は無効となりました。
◆ 2. 能力不足を理由に解雇できる?
片山組事件(昭和62年)
作業効率が悪いなどの理由で従業員が解雇されたケース。
● 客観的合理性
- 能力不足を示す具体的な記録や事実が乏しく、会社の主張は「主観的な不満」に近かった
● 社会通念上相当性
- 一般に、能力が足りないなら
指導・教育・配置転換といった改善措置を取ることが社会通念上求められる - しかし会社はほとんど対策をしていなかった
結果、この解雇も無効に。
◆ 3. 高すぎる損害賠償は有効?
日本食塩製造事件(昭和52年)
契約に「違反したら高額の損害賠償」という条項があり、それが妥当かが争われました。
● 客観的合理性
- 高額部分には合理的根拠がなく、
実際の損害額との関係が説明できなかった
● 社会通念上相当性
- 社会常識から見ても、従業員に一方的すぎるペナルティは許されない
結果、賠償条項のうち過大部分は無効。
■ 日常でも役に立つ視点
「客観的合理性」と「社会通念上相当性」は、実はビジネスや日常判断にも応用できます。
- 上司の指示は“客観的に”合理的か?
- 契約の内容は“社会常識的に”適切か?
- 自分の判断は、他者から見ても説明できるか?
この2つを意識するだけで、“感情”ではなく“妥当性”でものごとを判断できるようになります。
■ まとめ
- 客観的合理性:証拠や事実からみて筋が通っているか
- 社会通念上相当性:社会常識から見て妥当か
- 裁判ではこの二つをセットで使って判断される
- 懲戒・解雇・損害賠償などさまざまな場面で重要な基準
「合理的で、かつ常識的」
この両輪が噛み合って初めて、法律上「適切」と評価されます。
あなたの判断や会社のルールも、ぜひこの2つのモノサシでチェックしてみてください。


