マイカー通勤者は要チェック!非課税限度額アップの背景と実務ポイント
皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。
皆さまもニュースで目にしたかもしれませんが、2025年11月20日から通勤手当の非課税限度額が引き上げられました。
今回の改正は、特にマイカー通勤をする方に大きな影響があります。さらに、この新しい非課税枠は2025年4月1日以降に支払われる通勤手当に遡って適用されるため、年末調整で税金が戻ってくる可能性がある点も重要です。そこで今回は「通勤手当の非課税限度額改正」についてお話ししたいと思います。
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通勤手当の非課税限度額とは?
- 通勤手当として会社から支給されるお金のうち、 一定額までは所得税がかからない(=非課税) という制度。
- 非課税限度額を超える部分は “課税通勤手当” となり、給与扱いで所得税を計算します。
■ なぜ改正されたのか?その背景をわかりやすく
今回の改正には、次のような社会・経済的背景があります。
① 物価高・ガソリン価格の上昇への対応
近年、ガソリン代や車の維持費は上昇が続き、マイカー通勤の実質負担は増えていました。以前の非課税枠では現実と合わず、「実質負担が増えているのに非課税枠が変わらない」という状況が続いていたため、ようやく見直しが行われた形です。
② 制度の見直しは11年ぶり
自動車通勤者向けの非課税限度額が改定されるのは2014年以来。約10年以上の据え置きが続き、実際の通勤コストとの乖離が大きくなっていました。
③ 通勤実態に合わせた税制の公平性の確保
地方では公共交通より車通勤が主流の地域も多く、現行制度では「車通勤者が不利」という声がありました。今回の見直しは、通勤実態に合う形で制度の公平性を高める狙いがあります。
④ 家計支援・物価対策としての意味合い
非課税枠を広げることは、直接的な減税ではありませんが、手取り額を増やす効果があり、広い意味での物価高対策の一つです。
こうした社会的背景が重なり、今回の改正となりました。
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■ 距離ごとの新しい非課税限度額(文章で解説)
今回の改正により、非課税枠は次のように増額されました。
・片道2〜10km未満は4,200円で据え置き
・片道10〜15km:7,100円 → 7,300円
・片道15〜25km:12,900円 → 13,500円
・片道45〜55km:28,000円 → 32,300円
・片道55km以上:31,600円 → 38,700円
距離が長いほど増額幅が大きく、特に長距離のマイカー通勤者に恩恵があります。
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■ 具体例:片道12kmのAさんの場合
Aさんは片道12km(10〜15km)を車で通勤し、毎月8,000円の通勤手当を受け取っています。
〔改正前〕
非課税枠は7,100円。
→ 8,000円のうち900円が課税対象。
〔改正後〕
非課税枠が7,300円に増額。
→ 課税対象は700円に減少。
つまりAさんは、1か月あたり200円分余計に課税されていたことになり、4月以降の対象月数×200円の金額について、年末調整で税金が戻る可能性があります。
■ 企業が押さえるべき実務ポイント
- 給与計算ソフトが改正に対応しているか確認
古い設定のままだと年末調整での精算漏れが生じる可能性があります。必ず改正後の非課税枠に対応しているかチェックしましょう。 - 年末調整で4月以降の通勤手当を再計算する
改正前の上限で源泉徴収していた場合、課税されすぎた金額が出てくるため、年末調整で正しい非課税枠に基づいて再計算する必要があります。 - 従業員への周知
「今回の改正で税金が戻る可能性がある」ことをマイカー通勤者へしっかり伝えると、安心していただけます。 - 退職者への対応(源泉徴収票の再発行)も忘れずに
今回の改正は 2025年4月以降に支払われた通勤手当へ遡って適用されるため、「すでに退職した従業員」についても、在職中に支給した通勤手当が精算の対象となる場合があります。
そのため、
• 改正後の非課税枠に基づき再計算する
• 必要に応じて源泉徴収票を訂正し、再発行する
• 退職者へ連絡し、正しい源泉徴収票を渡す(または郵送する)
といった対応が求められます。
源泉徴収票の訂正が必要なケースでは、退職者がすでに転職していることも多く、提出期限があるため、できるだけ早めの対応が重要です。企業としては、退職者も含めて「誰が影響を受けるか」を早めに洗い出すことがポイントになります。
■ まとめ
今回の改正は、マイカー通勤者を中心に“実態に合った税制”に近づける見直しです。
物価高やガソリン代の高騰によって深刻化していた通勤負担に一定の配慮がされた形で、手取りアップの効果も期待できます。
特に遡及適用により、年末調整で税金が戻ってくる可能性がある点は要注意です。
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