トラブルを防ぐ退職勧奨の進め方—事業主のための実務ガイド
皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。
人員配置の見直しや組織再編を行う際、「退職勧奨」を検討する場面は少なくありません。しかし、進め方を誤ると「退職強要」や「不当解雇」と評価され、労働局や弁護士を介した紛争に発展するリスクがあります。
今回は「退職勧奨」について、会社が知っておくべきポイントを、事例を交えながらお話ししたいと思います。
■ 退職勧奨とは?まず押さえておきたい基礎
退職勧奨とは、労働者に自主的な退職を提案する行為のことです。
あくまでも「合意による退職」を目指すもので、強制力はありません。
重要なのは、
『退職するかどうかを決めるのは労働者である』
という点です。
したがって、会社側が強く迫ったり、断りづらい雰囲気を作ると、退職強要と受け取られ、法的リスクが一気に高まります。
■ なぜトラブルになるのか?
多くのトラブルは、会社側の意図と労働者側の受け止め方のギャップから生じます。
例えば、
• 「丁寧に説明したつもり」が実は長時間の説得になっていた
• 「選択肢として退職を提示しただけ」が不利益の示唆と受け取られた
• 企業再編の必要性を伝えたが、本人には言い訳に聞こえた
退職勧奨は、受け手がプレッシャーを感じやすいため、主観的な受け止め方が重要視される点に注意が必要です。
■ 実際にあったトラブル事例
● 事例1:長時間の退職説得が「強要」と認定されかけたケース
管理職が業績不振の社員に対し、1時間以上の面談で退職を提案し続けた例です。
管理職は「状況を丁寧に伝えただけ」という認識でしたが、本人は強い心理的圧力を受けたとして労働局へ相談。
結果として、会社側は面談体制を見直し、記録管理を徹底することになりました。
● 事例2:評価説明が不利益誘導と受け取られたケース
能力不足を理由に退職を勧めたところ、「退職しなければ評価を下げる」と脅されたと本人が主張。
会社側は単に現状を説明しただけでしたが、退職と紐付けた発言が問題となり、紛争に発展しました。
■ 事業主が必ず守るべき「退職勧奨のルール」
安全に退職勧奨を進めるためには、次のポイントが不可欠です。
- 即答を求めない
「今日中に返事を」などはNG。検討期間を設けることで、公平性が保たれます。
- 面談内容を記録に残す
日時・参加者・説明内容・本人の反応を記録。後の紛争防止に役立ちます。
- 複数名で面談する
管理職の独断で行うと、言った・言わないの争いに発展します。複数名や人事担当を同席させるのが安全です。
- 退職を条件に不利益を示唆しない
「辞めないなら配置転換」「評価を下げる」などは退職強要と判断されやすく非常に危険です。
- 合意内容は必ず書面化する
合意退職書・退職条件の書面化は必須です。退職日や条件、退職金の扱いなどを明確にしておくことで後のトラブルを予防できます。
■ まとめ
退職勧奨は、企業にとって人員調整の有効な手段である一方、進め方を誤れば大きなリスクを伴います。
安全に実施するためには、
「本人の意思を尊重すること」
「透明性のあるプロセスを整えること」
が不可欠です。
退職勧奨について不安がある事業主様は、ぜひ専門家にご相談ください。
当事務所では、実務に沿ったアドバイスや書面整備まで包括的にサポートいたします。


