最低賃金の引き上げで「基本給の逆転」…どう対応する?

皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。

前回は、最低賃金を下回る従業員の基本給の引き上げについてのポイントをお話ししました。

しかし、単に対象者の基本給を引き上げるだけの対応では思わぬ形で社内に“不公平感”が生まれるケースがあります。

今回は、実際にあった相談事例をもとに、最低賃金の引き上げに伴う基本給のアップの注意点をお話ししたいと思います。

■ よくあるケース:基本給が逆転してしまう問題

ある会社では、次のような状況が生まれました。
• Aさん:基本給が最低賃金を下回ったため、法律に合わせて基本給を引き上げた
• Bさん:資格手当が支給されており、総額として最低賃金を上回っていたため基本給は据え置き

結果として、「資格を持つBさんより、Aさんの方が基本給が高くなる」という逆転現象が起こり、双方に不公平感が生まれてしまいました。

このような問題は、法令上は問題がなくても、従業員のモチベーションに大きく影響します。

■ なぜこうなるのか?

最低賃金は、基本給+固定的に支払われる手当の合計で計算されます。
そのため、基本給が低くても手当で補えている人は「最低賃金を下回らない」と判断され、基本給を上げる必要がありません。

一方、手当がない人は基本給がそのまま最低賃金に直結します。これが、最低賃金改定のたびに“基本給そのもの”を上げざるを得ない人と、最低賃金の影響を受けず据え置きとなる人の差につながるのです。

■ 法律上は問題なし。でも“職場の納得感”はどうか?

最低賃金法に基づく対応としては完全に正しい運用です。

しかし現場では、
• 「手当がある人の方が能力が高いのに、基本給が低いままで納得できない」
• 「手当がない人の方が基本給が高いなんて逆転していておかしい」

といった声が出ることが少なくありません。

賃金は従業員の働く意欲に大きく影響するため、法令を守るだけでは解決しない“心理的な不公平”に配慮する必要があります。

■ 改善策:対象者以外の「基本給の見直し」を行う

今回のような逆転が続くと、職場の雰囲気や人材定着に悪影響が出かねません。

そこで有効なのが、最低賃金の影響を受けない従業員(今回の例ではBさん)の基本給も見直すという対応です。

ポイントは次の通りです。

◎ ① 基本給の“下限”を設定する

職種や等級ごとに、最低ラインの基本給を設定し、能力や役割に見合った基本給の水準を維持できるようにします。

◎ ② 手当と基本給の役割を明確にする

資格手当は「資格の評価」という追加報酬であり、基本給とは別の役割を持つことを説明しておくことが重要です。

◎ ③ 従業員間の基本給のバランスを整える

最低賃金によって基本給の逆転が起きた場合には、基本給の据え置き組の給与水準も段階的に調整し、不公平感を解消します。

これにより、「資格を持つ人の基本給まで低いまま」という状況を避けることができ、従業員の納得感も高まります。

■ まとめ:最低賃金の引き上げは“賃金体系を見直す好機”

最低賃金の上昇は、単に「下限額に合わせて調整するだけ」の問題ではありません。賃金体系のゆがみや逆転が起きやすく、放置するとモチベーション低下や退職にもつながりかねません。

従業員が納得できる賃金体系を保つためには、基本給の体系そのものを見直すことが必要です。

「うちの会社は大丈夫だろうか…?」
そんな不安があれば、お気軽にご相談ください。

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