給与からの天引き、どこまでOK?意外と知らない「給与天引き」のルール
皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。
今回は、日常的に行われている「給与天引き」についてお話ししたいと思います。
会社にとっても従業員にとっても身近なことですが、実はルールを知らずにやってしまうと違法になるケースがあるのをご存じでしょうか?
● 給与天引きとは?
給与天引きとは、従業員の給料から一定の金額を差し引いて会社が支払いや納付を代行することです。代表的なものは次の通りです。
- 社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険)
- 所得税(源泉徴収税)
- 住民税(特別徴収)
これらは法律に基づいて会社が差し引くことが定められており、当然の業務です。ここまでは問題ありません。
● 注意が必要なのは「会社独自の天引き」
問題となるのは、法律で義務づけられていない天引きです。たとえば次のようなケースです。
- 社員旅行費用や懇親会費の天引き
- 制服のクリーニング代
- 社内の積立金や互助会費
- 遅刻や欠勤の罰金としての天引き
これらは、従業員本人の同意がなければ違法になります。
労働基準法第24条では、「賃金は全額を直接労働者に支払わなければならない」と定められています。このため、会社の判断だけで給与から差し引くことはできないのです。
● 同意があれば大丈夫?
「本人の同意があれば問題ない」と思われがちですが、注意が必要です。形式的な同意では不十分で、具体的な金額や内容を明示した書面での同意が望ましいです。
例えば、「毎月1,000円を互助会費として天引きすることに同意します」といった形です。
入社時に「会社が必要と認めるものを天引きすることに同意します」といった包括的な同意書では、認められない可能性が高いです。
● 違法な天引きが発覚するとどうなる?
違法な天引きを行っていた場合、会社が未払い賃金として返還する義務を負うことになります。また、悪質な場合は労働基準監督署から是正勧告を受けることもあります。
「長年やってきたから大丈夫」と油断せず、あらためて社内ルールを見直すことが大切です。
● 給与天引きを適正に行うために
給与天引きを行う際は、次の3点を押さえておきましょう。
- 法律で定められたものか確認する(社会保険料・税金など)
- 会社独自のものは本人の明確な同意を得る
- 天引きの内容を給与明細に正しく表示する
この3つを守るだけで、多くのトラブルは防げます。
● まとめ
給与天引きは、会社にとっても従業員にとっても便利な仕組みですが、扱いを誤ると「未払い賃金」や「労基署対応」といった大きな問題に発展することがあります。
「うちの天引き、問題ないかな?」と思われたら、ぜひ一度ご相談ください。法律に沿った運用や同意書の整備をお手伝いいたします。


