時間外労働の上限規制緩和の議論について 〜「働き方改革」は次のステージへ〜

皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。

今回は、最近ニュースなどで話題になっている「時間外労働の上限規制の緩和」についてお話ししたいと思います。

■ 時間外労働の上限とは?

まずは基本からおさらいしましょう。現在、日本では「働き方改革関連法」により、残業時間に明確な上限が設けられています。

原則として、36協定の締結により

  • 月45時間、年360時間まで
    が上限です。

しかし、繁忙期など「特別な事情」がある場合は、労使協定(いわゆる36協定の特別条項)を結ぶことで、

  • 年720時間以内
  • 複数月平均80時間以内(休日労働含む)
  • 1か月100時間未満(休日労働含む)
    まで延長することができます。

このルールは、長時間労働を防ぎ、過労死などの悲しい事例を減らすために導入されました。企業側もこの数年間で、労働時間の管理を強化し、働き方改革に取り組んできました。

■ なぜ今「規制緩和」が議論されているのか?

ところが、2025年に入り、政府内で「上限規制を緩和すべきではないか」という議論が出ています。背景には、次のような事情があります。

  • 人手不足の深刻化:特に建設業、運輸業、医療、介護などでは人員が足りず、現場が回らない。
  • 繁忙期の対応が難しい:現行の上限だと、繁忙期に業務が集中した際の対応が厳しい。
  • 「もっと働きたい」人の希望も尊重すべきという意見もある。

つまり、「働く時間の制限が厳しすぎる」と感じる現場の声がある一方で、「健康を守るための規制は必要」という意見も根強く、今まさにせめぎ合いの状態です。

■ 緩和に向けた議論の方向性

現時点(2025年11月)では、まだ具体的な法改正は決まっていません。ただし、政府は「健康確保を前提とした柔軟な働き方の制度化」をテーマに検討を進めており、次のような案が取り沙汰されています。

  • 特定の業種における上限時間の見直し
  • 労働者本人の希望を踏まえた柔軟な残業上限設定
  • 長時間労働が続く場合の健康診断・面談義務の強化

つまり、「単なる緩和」ではなく、「安全と柔軟性の両立」を目指す方向性が模索されています。

■ 社会保険労務士としての視点

制度が変わる可能性がある中で、企業が注意すべきポイントは次の3つです。

  1. 今のルールをしっかり守ること
     緩和の議論があるからといって、現行の上限を超える労働を容認してはいけません。
     厚生労働省の監督指導も引き続き厳しく行われています。
  2. 「繁忙期ありき」の働き方を見直すこと
     人員計画や業務の平準化を進め、特定の社員に負担が集中しない体制づくりが重要です。
  3. 健康管理の徹底
     どんなに制度が緩和されても、社員の健康を守る責任は企業にあります。
     長時間労働が発生する場合には、医師面談や勤務間インターバルの導入など、健康リスクを下げる仕組みを整えましょう。

■ まとめ 〜「緩和=良いこと」ではない〜

今後、上限規制がどのように見直されるかはまだ不透明ですが、「緩和」が即ち「働きやすくなる」というわけではありません。むしろ、制度が柔軟になるほど、企業にはより高度な労務管理が求められます。

当事務所は、法改正の動向を注視しつつ、企業と労働者の双方が安心して働ける環境づくりをサポートしていきます。

働く時間を「ただ減らす」「ただ増やす」ではなく、“どう働くか”を考える時代へ。この機会に、自社の労働時間管理を一度見直してみてはいかがでしょうか。

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