離職票の発行は会社の義務です!遅れると法的リスクも?
皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。
退職者から「離職票がまだ届かない」と問い合わせを受けたことはありませんか?
実は、離職票の発行をめぐるトラブルは非常に多く、中には発行遅延が原因で行政指導を受けたり、損害賠償請求に発展するケースもあります。
「退職した人の書類だから後回しでいい」――そう考えるのは危険です。
離職票の発行は、条件を満たす場合には会社の法的義務であり、対応を怠ると、企業に思わぬリスクが及ぶ可能性があります。
今回は、「離職票の発行義務」と「発行遅延によるリスク」についてお話ししたいと思います。
■そもそも離職票とは?
離職票は、退職した従業員が失業給付(雇用保険の基本手当)を受けるために必要な書類です。
「離職票-1」には氏名や離職理由などの情報が、
「離職票-2」には退職前6か月間の賃金や勤務日数が記載されます。
従業員がこれをハローワークに提出することで、初めて失業給付の手続きが行えます。
■離職票の発行は“義務”です
会社には、離職票を発行する法的義務があります。
根拠となるのは「雇用保険法施行規則第7条」で、退職者が希望した場合、事業主は速やかに「離職証明書」をハローワークへ提出し、離職票の交付を受けなければなりません。
つまり、退職者から「離職票が欲しい」と申し出があったら、必ず発行手続きを行う義務があるということです。
一方、退職者からの発行の希望が無い場合には、発行義務は生じません。
したがって、退職時に「離職票の希望有無」を確認し、希望がある場合は迅速に手続きを進めることが重要です。
■発行の流れと目安期間
離職票は、退職日から概ね10日以内で届くのが一般的です。
流れとしては次の通りです:
- 会社が「資格喪失届」と「離職証明書」をハローワークへ提出
- ハローワークが内容を確認後、「離職票-1・2」を会社へ交付
- 会社がそれを従業員へ送付
この一連の手続きが遅れると、従業員は失業給付の申請ができず、生活に支障をきたすこともあります。
■離職票の発行を怠るとどうなる?
発行を怠る、または遅らせることによって、企業には次のようなリスクが生じます。
1. 行政指導や改善命令の対象に
ハローワークや労働局は、離職票の発行が遅れている場合、会社に対して発行を促すことがあります。
それでも改善されない場合には、行政指導を受けることもあり、悪質と判断されれば、雇用保険の適用事業所としての信頼を損ねる可能性もあります。
2. 損害賠償請求リスク
離職票が発行されず、失業給付の開始が遅れたことで従業員が経済的損害を被った場合、会社が損害賠償を請求される可能性もあります。
3. 離職理由の誤記による訴訟リスク
「自己都合」と記載したが、実際は「会社都合」だった――
このような離職理由の誤りがトラブルの原因になることも少なくありません。
【東京地裁 平成26年判決】では、会社が「自己都合」として離職票を提出したところ、裁判所は「実質は会社都合」と判断し、従業員の主張を認めました。
このように、離職票の内容は形式ではなく実態で判断されるため、慎重な記載が求められます。
■企業が取るべき実務対応
離職票トラブルを防ぐためには、次の対応を徹底することが重要です。
- 退職時に「離職票の希望有無」を必ず確認する
- 退職日から10日以内に手続きを完了させる
- 離職理由は客観的な資料をもとに判断し、根拠を記録に残す
- 従業員からの問い合わせには誠実に対応する
これらを社内ルールとして明文化し、
担当者不在時にも対応できる体制を整えておくことが望まれます。
■まとめ:誠実な対応が企業の信頼を守る
離職票の発行は、退職者への「義務的対応」であると同時に、企業のコンプライアンス意識を示す重要な場面です。
発行遅延や離職理由の誤りは、行政指導や損害賠償などの法的リスクを招くだけでなく、企業の評判や信用にも影響を与えかねません。
適切な手続きを迅速に行い、誠実に対応することで、トラブルを未然に防ぎ、企業の信頼を守ることができます。
当事務所では、離職票の発行実務や退職手続き体制の整備、離職理由に関するトラブル予防など、企業側の労務コンプライアンスをサポートしています。
「うちは大丈夫かな?」と思われたら、ぜひ一度ご相談ください。


