「業務委託」のつもりが“雇用扱い”に!? 知らないと危険な契約トラブルと実例解説

皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。

「○○さんとは業務委託契約だから、残業代も社会保険も関係ない」

時々そのようなお話しを耳にしますが、実はその“業務委託”契約、実態によっては「雇用契約」と判断される可能性があります。

もし裁判などで雇用関係があると認定されれば、会社には未払い残業代の支払い、社会保険料の遡及負担、労災補償など、大きなリスクが発生します。

今回は、経営者が注意すべき「雇用契約と業務委託契約の違い」について、判例を交えながらお話ししたいと思います。

■雇用契約と業務委託契約の根本的な違い

雇用契約とは、労働者が会社の指揮命令のもとで働き、その対価として賃金を受け取る契約です。

会社が「働く時間」や「場所」「仕事内容」を決め、働いた時間に応じて給料を支払う――

このような関係は典型的な雇用契約といえます。

一方、業務委託契約とは、成果物や一定の業務を依頼し、その結果に対して報酬を支払う契約です。

受託者は仕事の進め方や時間配分を自分で決められ、依頼者の指揮命令を受けません。

フリーランスや個人事業主がこの形態にあたります。

つまり、「誰の指示で働いているか」が大きな違いなのです。

■【判例紹介①】日本郵便委託配達員事件(東京高裁 平成29年)

日本郵便で働く委託配達員が、「実態は雇用だった」と主張した事案です。

会社側は「個人事業主としての業務委託契約」と説明していましたが、裁判所は次のような実態を重視しました。

  • 勤務時間や配達地域を会社が指定していた
  • 欠勤や遅刻には会社の承認が必要だった
  • 配達方法や業務手順にも細かい指示があった

結果、裁判所は「実質的に会社の指揮命令下で働いていた」と判断し、雇用関係を認めました。

この判決によって、会社には社会保険料の遡及加入や未払い手当の支払いなど、大きな負担が生じました。

■【判例紹介②】Y社タクシー運転手事件(最高裁 平成24年)

タクシー会社が「業務委託ドライバー」と契約していたケースでも、最高裁は「雇用関係あり」と判断しました。

理由は、勤務時間の管理、使用する車両や機器が会社所有であること、さらに営業区域や料金設定を会社が決めていた点です。

裁判所は「形式上は委託でも、実態は会社の管理下にある」として、労働者性を認める結論を出しました。

■なぜ経営リスクになるのか?

実態が雇用と認定されると、企業側には多くの法的責任が発生します。

  • 過去3年分の未払い残業代や休日手当の支払い
  • 厚生年金・健康保険の遡及加入(事業主負担分も)
  • 労災事故時の補償や損害賠償責任
  • 行政指導や風評による企業イメージの低下

特に、複数の委託契約者を抱えている企業では、一人でも「雇用関係」と認められると、他の契約も一斉に見直しを求められる可能性があります。

「うちは委託だから大丈夫」と油断することが、最大のリスクと言えます。

■コンプライアンスを守るためのポイント

  1. 契約書の形式ではなく実態を重視することを理解する。
     書面上「業務委託」としても、実態が雇用なら労働法の適用を受けます。
  2. 委託者に対して指揮命令を行わない。
     勤務時間・業務手順・報告方法などを細かく指定しないよう注意が必要です。
  3. 報酬を成果・出来高ベースで設定する。
     月額固定や時間単位の報酬は「雇用」と見なされやすくなります。
  4. 長期契約の委託先は定期的に見直す。
     1年以上継続して同じ仕事をしている場合は、形式上の委託ではなく「実質的な雇用」と判断される恐れがあります。

■まとめ

「業務委託契約」は柔軟な働き方を実現する便利な制度ですが、使い方を誤れば脱法的な雇用回避と見なされるリスクがあります。

実際、契約書上は「委託」としていても、日々の業務管理の仕方ひとつで「雇用」と判断されることは珍しくありません。

形式ではなく、実態に即した契約・運用を行うことが、コンプライアンス経営の基本です。

「この契約、本当に業務委託で大丈夫?」と不安を感じたら、早めにご相談ください。

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