形だけ代表はNG!裁判にもなった「労働者代表」選任ミスの落とし穴
皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。
会社で「36(サブロク)協定」や「就業規則の意見聴取」を行う際に登場する“労働者代表”。
実は、この代表の選び方を間違えると、協定そのものが無効になることもあります。
「代表って誰でもいいんじゃないの?」「管理職にお願いしているけど問題ない?」
そんな疑問を持つ方に向けて、今回は「労働者代表」について、判例も交えながらお話ししていきます。
■そもそも「労働者代表」とは?
労働者代表とは、会社と従業員の間で労使協定(例:36協定など)を結ぶときに、従業員側の意見を代表して署名・押印を行う人のことです。
労働基準法では、労使協定を結ぶ際には「労働者の過半数を代表する者」と協定を締結しなければならないと定められています。
この“代表”が正しく選ばれていない場合、協定そのものが無効とされることもあります。
■労働者代表を選ぶときの3つの原則
厚生労働省のガイドラインによれば、労働者代表は次のルールで選出する必要があります。
- 労働者の過半数を代表すること
対象となるのは「事業場のすべての労働者」。
正社員だけでなく、パートや契約社員も含まれます。 - 会社側が指名してはいけない
代表は、従業員による「民主的な手続き」で選ばなければなりません。
会社が一方的に「あなた代表ね」と決めるのはNGです。 - 管理監督者(店長・課長など)は原則除外
管理監督者は「使用者側」に近い立場と見なされるため、代表にはふさわしくありません。
たとえば、従業員による投票や、全員の話し合い・立候補など、従業員の意思を反映した手続きを経ることが重要です。
■【判例紹介】代表の選任が無効とされたケース
――「山梨県民信用組合事件」(東京高判 平17.12.22)
この事件では、会社が36協定を結ぶ際に、実際には従業員の意見を聞かず、会社側が指名した人を「代表」として協定を締結していました。
裁判所は、「会社の意向で指名された代表は、労働者の過半数を代表する者とはいえない」と判断し、その協定を無効としました。
このように、代表の選び方が不適正だと、協定があっても法的効力を失う可能性があります。
結果として、時間外労働が「違法残業」とみなされ、会社が是正勧告を受けることもあります。
■実務でよくあるトラブルと対策
- ケース1:管理職が代表になっていた
→ 管理職は使用者側とされるため、選び直しが必要です。 - ケース2:代表が昔のまま、誰も覚えていない
→ 年に一度の協定更新時などに、改めて選任手続きを行いましょう。 - ケース3:派遣社員やパートを除外して選んだ
→ 協定対象が「全労働者」の場合は、これらの従業員も含めて選出が必要です。
■まとめ
「労働者代表」は、労使協定の正当性を支える重要な存在です。
代表が正しく選ばれていないと、36協定や変形労働時間制の運用自体が無効になるおそれがあります。
選任方法を明文化し、従業員が納得できる形で選ぶことがトラブル防止の第一歩です。


