労働基準法第3条~職場における“平等”のルール~
皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。
今回は、労働基準法の中でも基本中の基本と言える「第3条」についてお話しします。
あまり注目されない条文ですが、実は「職場の公平性」を守る上で非常に大切なものです。
さらに、採用の場面においても誤解が多い部分ですので、その違いについてもわかりやすくご説明します。
■ 労働基準法第3条の内容とは?
まずは条文を確認してみましょう。
第三条(均等待遇)
使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない。
つまり、「国籍・信条・社会的身分を理由に、労働条件で差別してはいけません」という規定です。
この条文は、雇われた後の労働条件(賃金、昇進、労働時間など)における平等を保障するものであり、労働関係の出発点に当たる重要な原則です。
■ 「採用」には直接適用されないって本当?
ここで注意したいのが、「労働基準法第3条は、採用の段階には直接は適用されない」という点です。
なぜなら、労働基準法は「労働契約が成立した後」の労働条件を規制する法律だからです。
つまり、「まだ雇用契約を結んでいない=労働者ではない」ため、採用選考の場面はこの3条の直接的な対象外とされています。
しかし、これは「採用時に差別してもいい」という意味ではありません。
採用の段階では、別の法律――職業安定法第3条(職業差別の禁止)や男女雇用機会均等法第5条(性別による差別の禁止)などが関係します。
たとえば、次のような行為は法律違反や不当な差別にあたるおそれがあります。
- 「女性は事務職しか採用しない」
- 「外国人は採用しない」
- 「○○出身の人は不可」「親の職業が○○だと採用しない」
採用の場面では、応募者の能力や適性とは無関係な属性を理由に排除することが問題となります。
つまり、3条の精神は採用にも引き継がれており、「採用差別の禁止」という形で他の法律に反映されているのです。
■ 採用後は労働基準法第3条が適用される
採用が決まり、労働契約が成立した瞬間から、労働基準法第3条の効力が及びます。
ここで禁止されるのは、国籍・信条・社会的身分を理由とした労働条件の差別的取り扱いです。
たとえば、以下のようなケースは違法または不当と判断される可能性があります。
- 同じ業務をしているのに、外国人という理由で給与を下げる
- 宗教的理由で休日を取得した社員を人事評価で不利に扱う
- 家柄や出身地を理由に昇進の機会を制限する
このような差別は、企業の信用を損ねるだけでなく、行政指導や訴訟のリスクにもつながります。
■ 経営者が注意すべきポイント
採用段階・雇用後のどちらにおいても、差別防止のために企業ができることは多くあります。
- 採用基準を明文化し、公平な評価を行う
→ 能力・適性・経験など、業務に関係する要素に基づく判断を徹底しましょう。 - 面接担当者への教育
→ 意図せず差別的な質問(例:「結婚の予定は?」「宗教は?」など)をしてしまうケースが多くあります。人事担当者にも法的知識を共有しましょう。 - 雇用後も平等な待遇の確認を
→ 昇進・昇給・研修の機会などに偏りが生じていないか、定期的に点検することが重要です。
■ まとめ
労働基準法第3条は、職場における平等を保障する基本原則であり、「国籍・信条・社会的身分による差別」を禁止しています。
採用の場面には直接適用されませんが、その精神は職業安定法や男女雇用機会均等法などを通じて採用差別の防止にも反映されています。
企業にとって、公平な採用と平等な労働条件の整備は、法令遵守のためだけでなく、多様な人材が安心して力を発揮できる職場づくりの基盤でもあります。
法律に沿った採用・人事制度の整備をサポートいたします。


