懲戒処分者の実名公表は違法?社内通知の注意点
皆様こんにちは。社会保険労務士の岩竹です。
今回は「懲戒処分者の実名公表」に関してお話ししたいと思います。
「社員が不正行為をしたため懲戒処分にした。再発防止のために、実名で全社員に知らせたい」
以前このような相談を企業の方からいただいたことがあります。
確かに、組織の秩序を守るためには、処分内容を周知することは重要なことです。しかし、懲戒処分者の実名を公表する行為には、慎重な判断が必要です。
実名公表は「名誉毀損」や「プライバシー侵害」になるおそれも
懲戒処分は、社員の違反行為に対して会社が行う制裁措置です。ただし、その処分の内容や本人の氏名を社内であっても公表すると、本人の社会的評価を下げる結果につながることがあります。
このような場合、名誉毀損やプライバシー侵害として損害賠償の対象となるリスクがあります。
懲戒処分の目的は、あくまで「社内秩序の維持」や「再発防止」であり、「見せしめ」ではありません。したがって、実名を公表することに明確な必要性がない場合は、匿名や部署名のみの通知にとどめるのが望ましい対応です。
実名公表が認められる可能性があるケース
一方で、すべての実名公表が禁止されているわけではありません。
以下のように、業務上の必要性が高い場合には、一定の範囲で公表が許されることもあります。
- 社員が金銭横領や重大なハラスメントなど、組織全体に影響を及ぼす行為を行った場合
- 再発防止のために、業務上関係する部署内で事実共有が必要な場合
- 社員の安全確保や企業コンプライアンス上、限定的な周知が避けられない場合
ただし、それでも公表範囲は必要最小限にとどめることが大切です。たとえば、全社員に通知する場合でも、詳細な経緯や個人情報を含めず、処分の趣旨と再発防止策を中心に伝えるのが適切です。なお、社外への実名公表(ホームページや報道対応など)は、本人の社会的信用を著しく損なうおそれがあり、原則として避けるべきです。
実務上のポイント
- 実名公表の目的・範囲・方法を明確にしておく
- 社内通達では、必要最小限の情報に絞る
- 就業規則に「懲戒処分の公表に関する方針」を明記しておくことで、対応の基準が明確になります
- 判断に迷ったときは、法的リスクを避けるためにも専門家に相談することが重要です
まとめ
懲戒処分者の実名公表は、安易に行うと企業にとっても大きなリスクとなります。
公表の目的が「再発防止」や「組織秩序の維持」であっても、本人の名誉やプライバシーを損なう可能性がある場合には、慎重に検討しなければなりません。
どこまで知らせるべきか、どのように伝えるべきか——。
企業の信頼を守るためにも、社内周知は慎重に行いましょう。


